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10年度診療報酬改定、4月実施危ぶんだ時期も(医療介護CBニュース)

【第103回】遠藤久夫さん(中央社会保険医療協議会会長、学習院大経済学部教授)

 再診料や外来管理加算、DPCの調整係数の廃止などが課題となった2010年度診療報酬改定。医療費の配分を決める中央社会保険医療協議会(中医協)の審議は、政権交代と委員交代の影響で、昨年9月から10月にかけて1か月間、空転した。審議の取りまとめに当たった遠藤久夫会長は、今年4月の改定実施を危ぶんだ時期もあったという。(兼松昭夫)

■改定実施のずれ込みに病院団体が強い懸念

―10年度診療報酬改定に向けた中医協の審議を振り返っていかがでしょうか。
 DPCの調整係数の廃止とそれに代わる新しい機能評価係数の創設、ドラッグラグの解消を目指した薬価制度改革といった大きな制度改革が予定されていましたし、外来管理加算のいわゆる「5分要件」の見直しの問題も議論が白熱すると予想され、審議時間は十分にはないと、当初から思っていました。そのため、審議のスタートを前倒ししたいと考えていましたが、結果的にそれほど早まりませんでした。こうした中で政権交代があり、本来なら集中審議が始まるはずの昨年秋に1か月間、空転しました。これらの要因が重なって、審議時間が十分確保できなかったというのが率直な気持ちです。
 さらに、委員の交代もありました。これによって、再開後は診療報酬に限らず、医療の本質的な議論が交わされるようになりました。特に診療側は当初、各委員の発言を必ずしも調整しておらず、これが活発な「本音トーク」につながったと思います。そもそも医療の課題は、提供体制、保険制度が重層的に組み合わさって生じています。診療報酬というほんの一部分を議論しても、全体を議論しないと方向性が定まらないのは当然の話なので、診療報酬に直接関係しないご意見も途中で制止しないようにしたつもりです。しかし、これらの意見を取りまとめるには時間がかかります。個人的にはエキサイティングであったと同時に、非常にストレスも感じました。
 11月以降は週2日、場合によっては一日5時間を費やすなど、審議時間の確保に努めましたが、それでも十分ではなかったと思います。2月12日に取りまとめた答申書の付帯意見には15項目が盛り込まれました。これらはいわば12年度以降の申し送り事項です。逆に言えば、これだけの課題を先送りせざるを得なかったわけで、このことも審議時間が不十分だったことの表れの一つだと思います。

―昨年10月には、本来なら集中審議を始める時期にちょうど1か月間、議論が中断しましたが、この時はどのような心境でしたか。
 話し合わなければならない大きな問題がたくさんあるので、わたしは当初から、拙速な議論は慎むべきだと認識していました。一方で、中医協がいつ再開されるのかが分からなかったので、場合によっては診療報酬改定の実施時期を「4月より後にずらさざるを得ないかな」と考えた時期もありました。しかし、病院団体が改定時期のずれ込みに強い懸念を示したため、「4月実施を目指すほかない」と腹をくくりました。

―昨年12月にまとまった診療報酬改定の基本方針では、「救急、産科、小児、外科等の医療の再建」と「病院勤務医の負担軽減」が重点課題に位置付けられました。
 これらは社会保障審議会(社保審)の医療部会、医療保険部会で決定されたもので、基本的には08年度に実施された前回の報酬改定と大きく変わらない印象です。今回のポイントを挙げるなら、「外科対策」が加わった点です。外科は、厳しい勤務状況や訴訟の問題などで、救急や産科と似たような環境にあるわけですが、救急、産科、小児科ほど目立った「不足問題」が報じられることはなかった。しかし、外科の勤務医は減少しているし、若い医師の外科離れも急速に進んでいるといわれます。対策が取られるのが遅過ぎたとも言えます。中医協は今回、「外科系学会社会保険委員会連合」(外保連)の「手術報酬に関する試案」の中で最も難易度が高いと評価されている手術群を5割、その次の難易度の手術群を3割引き上げることに決めました。このような大幅な手術料のアップは、これまでに例がありません。手術料の引き上げで外科医不足問題が解消するなどとは思っていませんが、少しでも役に立つことを期待しています。
 
―2年後の12年度報酬改定では、手術料の算定にこの外保連試案を全面採用することが決まりました。
 薬価や材料価格の算定ルールは細か過ぎるほどに厳格ですが、一方で、医療技術に関しては明確な算定ルールは存在しません。医療技術の経済評価は技術的にも難しい面が多く、そう簡単に統一した算定ルールを作れないのが実態です。しかしわたしは、外保連試案はこれまで試行錯誤を重ねた結果、一定の説得力を持った価格表に仕上がっていると認識していました。手術料改定の際に、事務局(厚生労働省保険局医療課)が各手術間の料金の相対比として部分的に用いてきた実績もあります。わたしは、手術の相対価格の決定に試案を全面活用すれば、手術に限定されるとはいえ、ルールに基づく診療報酬の改定に一歩近づけるのではないかと思っていました。

 とはいえ、中医協で外保連試案を突然持ち出すのも唐突なので、タイミングを計っていたのです。そんな折、診療側に、米国のメディケアの「ドクターズフィー」の導入を主張された委員がいました。ドクターズフィーは、▽報酬が医師に直接支払われる▽医療行為ごとの報酬の相対的な重み付けを医師が行う-という点が特徴です。この委員は、このうち報酬が医師に直接支払われる点を強調されたかったのだと思いますが、わたしはむしろ医療行為間の相対的な重み付けを医師が行う点に注目し、わが国の手術料の相対的な価格付けに外保連試案を使えるのではないかと提案しました。手術料全体の費用は中医協が決定し、それぞれの手術料への配分は学会側が決めるというスキームです。ただ、精度が高まっているとはいえ、各学会で評価の仕方が異なるなど、試案には解消すべき点もあるので、12年度の改定までに整理ができれば全面採用することになりました。これを機会に、診療報酬改定に際して学会側にも影響力を発揮してほしいと考えています。
―10年度診療報酬改定では、手術料の一部が明確なルールに従って決められた。
 そういうことです。今回の手術料引き上げは、外保連試案における評価、つまり学会側が行った手術の難易度評価と点数の引き上げ率とを対応させました。これまでの点数改定は、必ずしも明確な方針やルールに従って行われてきたわけではありませんが、今回の手術料の引き上げはルールが明確でした。透明性の向上という点では、一石を投じたのではないでしょうか。

■セクター別の医療費配分も検討課題

―10年度診療報酬改定では、全体の改定率を10年ぶりに引き上げることになりました。
 民主党の政権公約もあり、医療関係者はもう少し高い改定率を期待されたのではないかと思います。わたし自身は、「ある程度は高くなるのかな」との思いの一方で、経済環境が厳しいため、「それほど高い改定率は期待できないかな」という気持ちもありました。医療経済学者の一人として、わたしも日本の現在の医療費は少な過ぎると訴えてきました。しかし、中医協では支払側が、「経済状況が非常に厳しい中、診療報酬を引き上げる環境にはない」と主張していますし、会長としてこの改定率が適切かどうかはコメントできません。

―今回は、初めて入院・外来ごとに改定率が示されました。
 このことは、中医協の議論の在り方に関する非常に重要な問題提起だと理解しています。
 入院・外来ごとに改定率が示されたことに対し、診療側は「中医協の権限が縮小された」と反発しました。これに対してわたしは、五十パーセントは同意しますが、五十パーセントは同意できません。
 中医協は医療費の配分を議論する場ですから、入院と外来のような部門(セクター)別の医療費の配分についても当然、議論していいはずです。中医協の権能としても可能です。ですから、「その部分を外部に決められてしまった」という主張はその通りだと思います。けれども、こうしたセクター別の配分を中医協でこれまで議論してきたかというと、基本的にしてこなかった。例えば前回の08年度診療報酬改定では、外来の改定財源のうち400億円の入院への移譲をめぐって議論しました。このように、非常に重要な問題が絡むケースには例外がありますが、セクター別の配分は明確には議論してこなかった。ですから、「議論してこなかったことを外部に決められても仕方がない」という主張も成り立ちます。
 改定率の決定は内閣が予算編成のプロセスで行うこととされ、中医協は直接関与できないことになっています。少なくとも今回については、改定率を決める一連のプロセスの中で、ある種の条件として決まったことなので、広い意味では内閣が行う改定率の決定に包含されると、わたしは理解しました。

―今後は中医協でもセクター別の医療費配分を議論するのでしょうか。
 今後も政治主導でこのような方式が続くのかどうかは分かりませんが、「中医協でこそ、セクター別の配分の議論を行うべきだ」という意見が多いようなら、前向きに検討したいと思います。セクターとは入院、外来だけでなく、救急、産科など何でもよいのですが、要するに個別点数の議論に入る前に大きな区分の大まかな配分を議論するということです。
 こうした議論をするかどうかは委員のご意見に委ねますが、もし行われれば、医療費配分の議論に弾みを付けると思います。中医協は医療費の配分を決める審議会ですが、実際には具体的な個別点数を議論することは、今回の再診料など重要案件を除けばほとんどありません。中医協が個別点数について審議するのは、引き上げか引き下げかといった方向性と、算定要件や施設要件などに関することがほとんどです。具体的な点数は、事務局が計算したものが答申書の中で初めて示されます。このような慣行になっているのは、改定項目が膨大で、内容が専門的であることに加え、改定率が決まる年末から翌年2月半ばの答申までの1か月半の間に作業しなくてはならないからです。しかも、改定後の個別点数は、積算すると改定財源額に一致するように設定されていなければなりませんし、学会や関係団体からの意見聴取も必要です。従って、個別点数をすべて中医協で議論するのは難しいのが現状です。診療側から提案があったように、改定時期を4月から後ろにずらせば、点数が付いた後でも調整は可能です。その意味では、こうしたことも検討に値すると思います。ただ、スキームの大きな変更を伴うので、その影響も考慮しなければなりません。

 その点、セクター別の医療費配分をまず決め、その制約下でこれまでのように個別点数を決めていくやり方を取れば、改定時期を変更せずに、中医協の医療費配分機能をより明確にできるのではないかと思います。セクター別の議論でも、具体的な金額の議論は年末に改定率が決まってからでないとできませんが、「増額分の何パーセントを救急に」という比率の議論なら、改定率が決まっていなくても、社保審が基本方針を出せばすぐに始められます。基本方針の決定が早まれば、十分な審議時間も確保できるはずです。もちろん、現実にはいろいろな問題が出てくると思いますが、検討に値するとは思います。

―前回に続いて、今回の診療報酬改定でも診療所の再診料が焦点になりました。
 支払側は、分かりやすさの観点から病院と診療所の再診料を統一すべきだと主張しました。これに対して診療側は、診療所を71点に維持することを前提に統一に合意しました。初診料は病院と診療所で270点に既に統一されていますし、今回、再診料を統一することには合理性があるとわたしは考えました。
 問題は統一後の点数です。支払側は66点での統一を提案しましたが、再診料は診療所にとって収入のベースになる重要な点数です。あまり大幅に下げると、経営に悪影響が及んだり、モチベーションの低下につながったりする恐れがあります。こうした点に配慮して、公益側としては予算制約ぎりぎりのところで、69点での統一を提案しました。

―診療側からは、「他の領域への医療費配分を決めてから再診料を話し合うのはおかしい」という意見も出ました。
 新たに評価することになった項目の点数をある程度抑えれば、再診料にも財源を回せるはずだという趣旨だと理解しています。お気持ちは分かりますが、新たに評価する分野は社保審が示した重点課題と重なる部分が大きいので、優先的に議論するのは合理性があると思います。また、最初に再診料を議論した際、支払側から「財源がどれだけあるのかが分からないと、具体的な点数を議論できない」といった趣旨の指摘がありました。もっともなご指摘なので、わたしは他の項目への医療費配分を固めてから、改めて再診料を議論することを提案し、その時には反対意見が出ませんでした。そのため、それ以降はこうした流れで議論を進めたわけで、進行上の問題はなかったと考えています。

■12年度同時改定の審議、スタート前倒しへ

―付帯意見に盛り込まれた項目の検討は、新年度早々からスタートする必要があるとお考えでしょうか。
 もちろんです。付帯意見の中に「できるだけ早急に取り組みを開始する」という一文も入れてあります。たくさんあるので、どこまでできるかは分かりませんが、いずれにしろ議論には早く着手したいと思います。
 10年度診療報酬改定に向けた今回の議論では検討課題が多かったため、1か月間の空転がなかったとしても、審議時間は必ずしも十分とは言えませんでした。重要で本質的な課題は、報酬改定のない年に重点的に議論しておくべきでしょう。特に再診料、外来管理加算などの基本診療料や、地域特性を踏まえた診療報酬の在り方などの基本的な部分は、できるだけ早い時期に議論を始めるべきだと考えています。

―民主党が昨年の衆院選の際に公表した「政策集インデックス2009」では、中医協について「構成・運営等の改革」を行うとしています。
 委員の交代もありましたし、医科、歯科や入院、外来で異なる改定率が設定されるなど、「改革」は既に実施されていると思いますが、今後、どのように展開するのかは政権がお考えになることで、わたしには分かりません。
 現役の中医協委員としては、できる範囲で改善していくことしかないと思います。例えば今回は、エビデンスを示しながら透明性のある議論が行われるよう心掛けました。先程もお話したように、手術料について、学会による難易度の評価と点数の引き上げ率とを対応させ、引き上げの方針を明確にしました。引き上げのルールを明らかにするということは、これまであまりなかったのではないでしょうか。現在の課題を解消するという前提条件付きですが、外保連試案を手術料の相対評価に全面採用することになったのも、透明化につながる要素だと思います。
 限られた領域ではありますが、今回の改定結果がどのように影響したのか、金額をセクター単位で開示することになっています。これも初めての試みです。

 今回はまた、中医協による学会側からのヒアリングも行いました。医師会や病院団体、看護協会などの医療団体は従来から中医協の議論に参加してきましたが、学会に関しては従来、各学会が提出した提案書を基に事務局が改定案を作り、中医協に示す形でした。これはこれでとても大切なプロセスですが、一方で、学会からどのような要望が上がっているのかを、実際に点数を議論するわたしたちが十分に把握していませんでした。少なくとも、わたしたちもそれらを理解しておく必要があるし、診療科固有の課題はそれぞれの学会からお聞きするのが一番です。学会関係者からのヒアリングには、こうした点を一層透明化する狙いがありました。今回は、重点課題に挙げられた救急、小児、産科、外科系の学会からヒアリングしました。ほかにも聞きたい分野が幾つかありましたが、時間がなくてできませんでした。

 議論を進める上でのエビデンスの重視も進んでいます。外来管理加算の「5分要件」の撤廃は、中医協の診療報酬改定結果検証部会による調査結果が大きく影響したと考えられます。地域特性に考慮して診療報酬上の要件を緩和すべきかどうかの議論では、こうした仕組みを要望する意見が多かったのに結論が出なかった。どのような地域が要件緩和に値するのかを示すエビデンスを、説得力のある形で示せなかったためです。このように、中医協の議論の多くはエビデンスがないと進まなくなっています。エビデンスを重視するには、統計などさまざまな材料を準備しなくてはなりません。今回は、事務局の若手が大車輪で動いてくれました。短期間に準備していただいた資料が、エビデンスベースでの議論に本当に役立ちました。感謝しています。
 透明性の向上とエビデンス重視については、今後もさらに推進していくべきでしょう。


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by onzicllnpe | 2010-04-07 02:30